シックハウス症候群。病名としては比較的あたらしい部類に入るとおもいますが、しかし、すでに問題となって20年以上が経過しました。化学物質過敏症、または住原病ともいわれ、新築やリフォームが原因と言われています。よく言われるように、化学物質「ホルムアルデヒド」「アセトアルデヒド」が原因とおもわれますが、建物の気密性の向上が発症を誘発しているといえます。高耐火、高断熱を追いかけるあまり、建物に化学薬品を過剰に持ち込んでしまったのです。ある病院のデーターでは、144名の化学物質過敏症とおもわれる患者さんのうち、あきらかに新築やリフォームが原因であったのはじつに51名。35%を超えるというデーターがあります。

 ホルムアルデヒドは、国際癌研究機関(IRAC)によって、発ガン性の化学物質である点が指摘されています。ほかにも、急性毒性が非常に強いことや、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー性疾患を引き起こすことなどがわかっています。このホルムアルデヒドはいまや、建築のみならず、形状記憶シャツをはじめとした衣類や、家具などの合板の接着剤にもつかわれています。石油化学の発展がまねいた落とし穴とはいえ、建築だけに問題が集約されますとかえって足下をすくわれることにもなりかねません。
 世界保健機構(WHO)のガイドラインは「30分間の平均で立法メートルあたり0.1ミリグラム(0.08ppm)以下」という指針値を設定しています。これ以下ならとりあえず安全というわけです。日本農林規格(JAS)では、合板のホルムアルデヒドの量は、F1規格で200ppb、F2規格で2000ppb、F3規格で4000ppbとされています。

 住まいの気密性という点では、こんどはダニの発生が問題になってきました。そして、このダニを駆除する目的で
有機リン系化学物質がつかわれて、これがまた厄介な症状をひきおこします。有機リン系化学物質、たとえば、クロスの燃えにくい材質といった謳い文句には注意が必要です。こうした、燃えにくいといった(難燃性といいますが)特徴を備えるために、ここでも有機リン系化学物質が使われているのです。

 もうひとつは
電磁波の問題です。これは、建物のなかから電磁波が発生するわけではないのですが、人体に有効な電磁波を取り込むことで、有害な物質を抑える役目もあります。ご存知のように、人体にもっとも害のある電磁波はマイクロ波で、極超短波です。レーダーや衛星中継のテレビに使われる電波です。高圧線も有害です。X線や紫外線も人体に有害です。逆に遠赤外線は人間の情緒を安定させ、暖かく、暖房用としてもすぐれたものがあります。遠赤外線をつかった天井暖房も有害な電磁波を抑制するといった効果があります。放射性物質ラドンは、コンクリートから発生します。電器器具やOA機器から発生する電磁波をどう処理するかといった問題も含めて、住宅の諸問題をどう解決するか、そこにはまた自然素材の役割があります。

 「
クロルピリホス」は防蟻剤として、床下だけでなく土台、壁、柱などの構造体に塗布されるシロアリ駆除剤です。以前からその害については広く指摘されてきましたが、日本人のなかに住みつくシロアリへの抜き難い恐怖感が、この薬にたいしてあまりにも肝要すぎたのかもしれません。クロルピリホスの毒性がつよく、ただ、薬効が比較的短期間であることから見過ごされがちでした。また、塗装剤の問題もあるのですが、トルエンキシレン等の化学物質についても測定基準をもうけ、何らかの規制が必要になってくるものと思われます。

 アトピーや喘息に苦しんでいる人たちが家を新築するさいに、こうした症状の誘発を排除しようと考えることは当然です。自然素材の家をつくるということは、上にあげた問題の物質を建物に持ち込まないことです。「素材について」を参照していただきたいのですが、しかし、ここでも注意が必要です。自然素材と銘うった材料の

なかには、たとえば「珪藻土」はわずか10%で残りの90%が化学物質だとしても、材料メーカーはそれを自然素材として売ります。それがトレンドであり、それが旬であり、それが売れるのなら。(余談ですが、とある材料メーカーの営業マンは集成材をさして集成ムク材と呼ぶのです。「それは集成材でしょ」と聞くと「ええ、集成ムク材です」と返事がきます。で、よくよく聞くとそれはやはり薄い単板を貼り合わせた集成材なのです。)

 構造材に貼りものではない「ほんもの」のムク材をつかい、壁を珪藻土や和紙で仕上げ、床に無塗装の厚板を貼って自然塗料で塗装したとしても、それでもわたしたちの生活から化学物質を完全に除去することはむずかしいかもしれません。断熱材にウールをつかい、床下に
備長炭を敷き詰め、計画的な換気を実行することで汚染物質を家の外に追い出してしまう。シックハウスとの戦いは、いま始まったばかりです。